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19℃軍団

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みすずにはいくつかの軍団が存在した。

なかでもおれの代で特筆に価するひとつが19℃軍団だ。

おれは特に後期以降は自習室に残ってベンキョウした気分になるのを日課にしていた。

その自習室の後ろのほう10人ぐらいで陣取っている集団を

おれたちは畏敬を込めて19℃軍団と呼んでいた。

おれと同じクラスの男を筆頭として、一見悪者集団だった。

なぜ19℃軍団と呼ばれたのか?

それは蒸し暑いの話。

夏期講習も始まろうかという夏休み。

おれはクーラーが好きじゃねえ。

現在、一人暮らしを始めて1年強。

いまだに部屋についてるクーラーも暖房も使ったことがない。

涼しいのはうれしいけど、なんかくせえし、空気が妙だからだ。

だいたいゆでだこになるかのような猛暑から帰ってきた教室が冷蔵庫だったら、

コップじゃなくても割れちまう。

女の子は冷え性が多くて、やっぱり冷え過ぎるクーラーはいやだったらしい。

みすず南浦和校では、クーラーの温度を生徒が変えられるんだけど、

おれはいつも23℃を涼しさの限界としていた。

まあ大体そんなもんだろう。

地球環境に配慮すれば、25℃でも平気だったが、他の生徒のことを考えて、

23℃が適温ということにしておいた。

自習室を出て、自動販売機のあるロビーの窓から外を眺めてみる。

ビルの前の弁天公園でたのしくボールを蹴る18,9歳の青年たちが顔を輝かせていた。

なんかどっかでみたことあるなあ。

でも今夏期講習中だしなあ。

おれは自習室に戻った。

そこにやつらは現れた。

いきなりどかどかとスポーティーななりをして自習室の外の出入り口から現れ叫んだ。

いやあ、サッカーって楽しいな、おい。

あれえ!?なんか暑くねえ!?

えいえいえいえいえいえい!!

いきなりクーラーの温度下げボタンを連射する男たち。

最下点の19℃まで下げやがる。

部屋は徐々に冷蔵庫と化していった。

寒さに耐えられなくなるおれと同志達。

男たちは自習室に入ってくると、勉強道具を前に、

井戸端談義

それにしても暑いなあ。

てめーらはサッカーしてたんだから当たり前だ!!!

しかもやつらは5分と立たないうちに、

よっしゃ、もう一回行くぞ!おう!

ぐらいのことを言って、再び公園へ。

オマエラ何しにきとんねん!?

おれは世論を代表するつもりで再び気温を23℃に上げた。

自習室で落ち着いてさらに5分後。

こんどはやつらの別グループが帰ってきて叫んだ。

あれえ?なんか暑くねえ!?

えいえいえいえいえいえいえい!!

またもや19℃に下げる。

そのようすがあまりにおかしくて、ベンキョウする気が失せる。

おれもロビーに行ってジュースを買いながら、

おめえらさみーんだよ。23℃が最適だってばさ!!

と言った。

おれと同じクラスの軍団筆頭は答えた。

ばっかおめえ、おれのうちはもっと涼しいよ

やついわく、彼のうちは、春からエアコンを16℃に設定して過ごしているらしい。

おめえ、そりゃ異常だよ!?

その筆頭は見た目悪党だったが、気のいい人間だった。

やつはたばこを1日60本平均吸うおばかだ。

100本吸うこともたまにあるそうな。

100本!!!!

一日16時間起きているとして、計算すると10分に一本吸ってることになる。

しかもやつが吸っていたのは茶色フィルタのくそ重そうなやつだ。

やつは空気ではなくニコチンで呼吸する異生物だった。

そんなんだから代謝能力が退化して、温度調節能力が消えたんだろう。

で、おれやほかのやつがいくら温度を上げても、

ナイスなタイミングで現れて19℃に下げていくやつらを

19℃軍団と名づけたわけだ。

う〜ん、ナイスネーミング。

やつらは俺らの代の名物状態だった。

友達づきあいのあった同じクラスの筆頭くんとそのほか数人以外は

直接のつきあいはなかった。

にもかかわらず、おれも他の生徒も、常にやつらに注目していた。

だってうるせーんだもん。

筆頭くんはクールなんだけど。

それに一見悪者だから注目をひく。

自習室なのに、すぐ勉強に飽きて、くだらねえ話を始める。

そのはなしが面白すぎて、自習室の半分以上がベンキョウより話を聞いている。

おれもその一人だった。

よお、いいこと教えてやろうか。

え?なになに

最近、シモの毛リンスすんのが流行ってんだよ。

ええ!?まじまじ?それっていけてんの?

マジイケ!!

・・・・・!!!!

あほだ

おれは笑いたくて笑いたくてしょうがなかったが、必死にがまんした。

シャーペンを手の甲に突き刺したりして。

周りを見ると、同じように耐えてるやつが結構いたね。

たまにミヤガハラもやつらにまじって怪しさ爆発トーク。

やつらの騒がしさには、むかつくこともしばしばあったさ。

そりゃそうだ。受験生の邪魔すんな。

ていうかおめーらも受験生だ。

でも、たまにやつらがどこかに遠征していなくなるときがある。

ていうかどこ行ってんだ?

そういうときは、なんだかふと寂しくなったりする。

いるとうるせえけど。

そんなカンジで、19℃軍団はけっこう笑いの種としてはゆかいだった。

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