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「特撮ファンの部屋」

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○13の恐怖(恐怖劇場アンバランス)

 「心臓の弱い方、お一人でご覧になられる方は、この恐怖劇場アンバランスは、ご遠慮ください」。このナレーションと不気味な音楽と共に、我々を異質な世界に案内する作品「恐怖劇場アンバランス」。
 最初に声を大にして言っておきますが、本作は想像を絶する大傑作です。観ていない人は、不幸だと本気で思います。

 昭和44年は怪奇ブームであり、テレビ・映画問わず様々な怪奇ものが生み出された。その結果円谷プロでは「怪奇大作戦(TBS)」(もちろんこれも大傑作)をウルトラセブンの後番組として制作・放映していた。そしてその後制作することが決定したのが、本作「恐怖劇場アンバランス(フジテレビ)」です。怪奇大作戦があくまで子供番組の殻を被らなくてはいけないのに対して、本作は最初から大人がターゲットの1時間番組。でも順調に13本を制作し終わったところに悲劇が起きた。昭和45年のスポ根ブームのため、怪奇ブーム(特撮ブーム)が去ってしまったこと。そして本作のあまりに過激な内容のため、お蔵になってしまったこと。
 結局本作が放送されたのは4年後の昭和48年で、しかも深夜(昭和48年1月8日〜4月2日 毎週月曜日PM 11:15〜0:10)にひっそりとまるで人目をはばかるかのように。しかもどうやら関東ローカルだったらしい。とまあ散々な目にあった本作だけど、内容はとてつもなく素晴らしいのは承知の事実。

 内容は、全13本のオムニバスストーリー。いずれも現代を舞台に恐怖を描いている話です。本作がすごいのは、同じ恐怖というテーマでも、全然タイプが違う作品が集まっていることでしょう。
 正体不明の怪物・妖怪が出現する古典恐怖ものに乗っ取った作品。
 心理的な恐怖を描いた作品。
 純粋な推理もの。
 シュールなファンタジーホラー。

 わずか13本で、これだけバリエーション豊富な作品が集まったものも珍しい。
 個人的にお勧めは、「心理的な恐怖を描いた作品」です。特に「夜が明けたら」が一番気に入っています。内容は、娘が3人の男にからまれているのを、父親が助け出す。しかし父親はその3人の男を持っていたハサミで傷つけてしまった。刑務所に入る父親。「わたしは娘をまもっただけじゃないか。なのにこの仕打ちはなんだ!」。しかし出所した父親は、理解不能の行動に出る。なんと、その3人の男のめんどうを見ているのであった。目的は一体?
 誰もが持っている「自分だけが良ければいい」「しょせん他人事」。そういった心理をひにくった、見事な作品です。

 「殺しのゲーム」もなかなかの作品です。ある一人の男が病院から出てくると、仲のいい看護婦に恐ろしい真実を聞かされる。自分は癌で、もう数カ月の命だと。落胆する男の前に、一人の男が告げたこと。それは、自分と男とでお互いに殺し合いをしよう。どうせもう少ない命。それならばお互いに相手を殺そうと考えて過ごそうじゃないかと。そう、男も癌であと数カ月の命だというのである。
 人間の生きることへの執着心・死への恐怖を描いた、見事な作品です。

 最後にもう1本だけ紹介させてもらいます。「サラリーマンの勲章」(脚本は僕の大好きな上原正三先生)。一人の男が朝の満員電車で暗い表情をしていた。男は今日から課長に昇進し、いつもより30分早く出社しなくてはいけないのだが、うっかり寝坊をしてしまって時間ぎりぎりになってしまっていた。焦る男。苛立ちを抑えきれない男は、駅員に自分の降りる駅があとどれぐらいで到着するのかを聞いて唖然とする。「その駅でしたらもう通り過ぎましたよ」。ダメだ。もう絶対に間に合わない。男は会社に着くも、遅刻した後ろめたさから何処かに逃げ出してしまう。男は昇進なんかしたくなかった。課長になんかなりたくなかった。なぜなら30分早く家を出なくてはいけないから。
 結局サラリーマンに、勲章なんかないよ。自由なんかないよ。同じような境遇の僕は、主人公に自分を重ねてしまいます。

 僕が始めて本作を知ったのは、13歳のときでした。ちょうど特撮ファンになりかけているときに、関西テレビの深夜に再放送したのを観たのがきっかけです(ひょっとしたら関西ではこれが初放映?)。でもこの時は、あまりまじめに観なかったこともあって、あんまりおもしろいとは思えませんでした。本作に興味が出たのは、テレビマガジンの創刊15周年のときの別冊「ウルトラマン大全集2」での本作を扱った記事を観たときでした。

 ちなみに本作は4年間お蔵になっていたわけですが、とある大学が「すごい傑作があるらしい」といってテレビ放映もまだされていない時に本作の数本をレンタルして上映会を開いたそうです。これってすごい話だよねえ。

 「アンバランス」というタイトルを聞いて真っ先に思い浮かぶのが、「ウルトラQ」の最初のタイトル案が「アンバランス」だったことです。もともとウルトラQの最初のコンセプトが、「もし自然界のバランスが崩れたら」というもの。それから考えると、本作に「アンバランス」というタイトルが付けられたのは、「人間界のバランスが崩れたら」なのかもしれません。いつも生きている環境と違い、予想もつかない環境に放り出されたときほど怖いものはないですからね。

 なお、詳しく紹介はしませんでしたが、他の10本の作品ももちろん大傑作です。よくこれだけ傑作を制作できたものです。
 気になるビデオ・LDも出ているので、ぜひとも観てください。
 でも、「心臓の弱い方、お一人でご覧になられる方は、この恐怖劇場アンバランスは、ご遠慮ください」は絶対にまもってください。まもらないと、僕みたいに後悔しますよ。恐怖にまみれてしまった僕のように。


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