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「特撮ファンの部屋」

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○第2次特撮ブームの生みの親(スペクトルマン)

 スペクトルマン(最初のタイトルは「宇宙猿人ゴリ」)という作品を語るには、まず当時の時代背景を話す必要があるでしょう。時代は昭和46年。日本は高度成長期・万博と、絶好調であったが、ついにそのツケがまわってきた。公害である。物を生産することは行っても、そのために発生する有害なものについてなんの対策も取らなかったことがついに公害という最悪の事態を呼び起こしてしまった。水銀汚染・ヘドロ・光化学スモッグ。数々の公害病まで生んだ。四日市ぜんそく・水俣病・イタイタイ病。もちろん大問題になったが、それでもちゃんとした対策がとれなかったのは言うまでもない(さすが日本国)。
 そして、映画・テレビというメディアは「怪獣不在」という冬の時代であった。かつては大ブームだった怪獣達も、昭和45年から始まったスポ魂ブームによって居場所を奪われていた。だが、そんな怪獣達が黙って眠っているわけはなかった。5分だけのミニ番組「ウルトラファイト」は、毎回12%を維持する人気番組で、怪獣のソフビも売れていた。それに再放送(今では考えられないが、当時の再放送の数はものすごい)での、怪獣物(ウルトラ・マグマ大使・ジャイアントロボなど)の再評価。
 そういった人々の復活を願う声が届いたかのように、ついに土曜日のPM7:00に「宇宙猿人ゴリ」(ピープロ制作。フジテレビ放映)はスタートした。裏番組は強敵「巨人の星」だ。
 大ブームの番組の裏であったが、「宇宙猿人ゴリ」は「巨人の星」をあっというまに倒してしまった(すごい)。
 スポ魂ブームによって冬眠していた怪獣(というより特撮)作品は、偶然にもいくつかの企画が進行していた。映画では「ゴジラ対ヘドラ」「ガメラ対深海怪獣ジグラ」、テレビでは「帰ってきたウルトラマン」「仮面ライダー」「ミラーマン」「シルバー仮面」。なんと豪華なラインナップ。
 瞬く間に怪獣(というより特撮)は復活した。これが俗に言う第2次特撮ブームである。
 これらの作品には、一つの共通するものがある。公害である。当時大問題だった公害を取り入れたのだ。ちょうど昭和29年のゴジラが、当時大問題だった「原水爆実験」を取り入れたように。
 「ゴジラ対ヘドラ」はヘドロによって誕生したヘドラとゴジラが戦う。「ガメラ対深海怪獣ジグラ」では、ジグラは自分の星の海が公害で汚れたため住めなくなったので地球の海を侵略しにきた。「帰ってきたウルトラマン」の怪獣復活の理由の一つも公害だ(ザザーン・タッコング)。「仮面ライダー」のショッカーの作戦は、公害を利用する(テレビより原作の漫画のほうが)という雰囲気があるし、仮面ライダーがバッタの改造人間なのも、自然界からの平和の使者として、人間に警告するためにバッタが選ばれている。「ミラーマン」「シルバー仮面」はあまり公害とは関係ないのだが、「シルバー仮面」における「科学は正義にも悪にもなる」というテーマは、科学の使い方を誤って公害を生み出してしまったということに通じていると思う。

 この時期の特撮作品に公害問題が取り入れられているということだけど、そのテーマをもっとも表したのが、本作「宇宙猿人ゴリ」(スペクトルマン)である(やっと本題に入れた)。
 星を追放されたゴリは、手下のラーと共に宇宙をさまよっていると、地球に目を付ける。それも日本を。なぜ日本なのかというと、一番公害で汚れているから(ガメラが日本に来たのは、高度成長期だったので一番エネルギーをもっているからにも劣らない素晴らしい理由だ)。
 ゴリは公害で汚れている日本を、公害から生み出す公害怪獣で征服することを計画する。しかしその計画を知ったネヴィラ遊星。「そこに住むものが自分の星をどうしようが勝手だが、他の星の者が他の星を破壊しようとするのはいかん」ということで、ゴリの計画を阻止するために、サイボーグのスペクトルマンがネヴィラから地球に派遣される。
 スペクトルマンは普段は公害Gメンの蒲生譲二として活動し、ゴリの送り込む公害怪獣と戦うときにはネヴィラからの指令でスペクトルマンに変身して戦う。

 防衛隊ではなく公害Gメン。怪獣と戦うのではなく、あくまで公害を調査する組織で、公害を追っていたら必然的に怪獣に出会ってしまうという無理のない設定。
 蒲生譲治はネヴィラからの「スペクトルマンに告ぐ、ただちに変身せよ」の指令で「了解。蒲生譲二、スペクトルマンに変身します」といって右手を上げると、ネヴィラからのエネルギーを受けてスペクトルマンに変身する。もし自分の意思で変身したいときにも「変身お願いします」とわざわざネヴィラに了解をもらわなくてはいけない。なんかサラリーマンを見ているようでグッド!
 さて、スペクトルマン最大の特徴といっても過言ではない、公害怪獣とは一体どんな怪獣なんだろう?
 ネズバードン…ネズミとハトとの合成怪獣。ネズミ公害・ハト公害を象徴。
 ゴキノザウルス…そのものズバリ、ゴキブリの怪獣。
 バクラー…新築の団地に潜むシロアリ怪獣。
 ダストマン…ゴミ清掃の男性が怪獣化した。ゴミを喰う。
 モグネチュードン…モグラとナマズの合成怪獣。地震を起こす。
 ヘドロン…ヘドロから生まれた怪獣。
 とまあこんな感じの怪獣達。文章じゃ伝えにくいけど、とにかくすごいの一言。愛嬌のあるウルトラ怪獣とはえらい違いだ。
 こんな怪獣達が一家団らんのPM7:00に暴れ回るのだから、そりゃPTAも怒るよなあ(「宇宙猿人ゴリ」は気持ち悪いと新聞に掲載された)。
 ところでなぜタイトルがヒーローであるスペクトルマンではなく、敵役の宇宙猿人ゴリなのだろうか? 実はこの作品、「悪にも悪なりの考えがあるはずだ」という考え方で制作されているから(企画もその線でスタートしている)。つまり、ゴリから見た世界というわけだ。さすがは「マグマ大使」でゴアをメインに世界を描いたピープロ。
 でも話が進むごとに作風も変化し、公害Gメンは「我々はずっと怪獣と戦ってきた」という理由で怪獣Gメンとなり、ゴリは公害怪獣以外の怪獣も生み出すようになった。そしてメインもゴリではなく、スペクトルマン(と怪獣Gメン)になったのは残念だなあ。作風の変化と共にタイトルも「宇宙猿人ゴリ」「宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン」「スペクトルマン」と3回も変わっている(なぜかこのこと、知らない人が多いです)。
 当時の子供たちにとって、ゴリとラーは嫌な奴(悪役)というイメージがかなり強かった。僕が7歳のとき、玩具屋でC3PO(スターウォーズ)のプラモを買いに行ったとき、同じような年頃の男の子がいたんで話をしていたら仲よくなった。それでゴリとラーのプラモがあったので、その子はゴリを買うから、僕にラーを買わないかと言ってきた。でもゴリとラーは350円。300円しかない僕だったが(C3POは300円だったから)彼は50円出してもいいと言ってきた。悩んだけど、結局当初の予定通りC3POを買った。「そんなんでいいんか?」と彼は言ってきた(スターウォーズは子供には今一の人気だったからなあ。だって僕の周り、宇宙からのメッセージの方が人気あったもん)。それで帰り道、彼が言ったのは「スペクトルマンのプラモでゴリを潰して遊ぼ」だった。あ〜ゴリよ、哀れやのう。
 ウルトラに対して「子供のときにはわからなくても、大きくなったらわかる作品」とよく言われます。実はこのスペクトルマンもそうです。ウルトラに比べてマイナーなためあんまり言われていないのが残念ですが。
 知的障害者の青年が、ゴリの改造手術によって天才に生まれ変わる(すっげープロット)。だが天才になったがゆえの苦悩が彼を待っていた。しかも実は脳を喰うノーマンに改造されていた。そのノーマンを、スペクトルマンは哀しみを抑えて倒してしまう。ブランコに揺られながら、以前の自分を「なつかしいなあ」と思い出す青年の姿には涙してしまう。
 父親に怪獣の人形をもらった男の子は、その人形を持っているときに車にひき逃げされる。意識不明の男の子。やがてその人形は怪獣「クルマニクラス」となって、男の子をひき逃げした車を追う(なんかヒ○ラのパ○リっぽいなあ…)。ちなみにこのクルマニクラスは、一般公募によって選ばれた怪獣です。
 その他まだまだ傑作が多い。魔女を愛してしまった男とか、哀しいダストマンだとか。あんまり知られていないのがもったいない。
 でも時々メジャーじゃないかと思うときがあります。というのも、よく「スペクトルマンのLD(テープ)持ってない?」と一般の人(特撮ファンじゃない)に聞かれるので。やっぱり観ていた者にとって、かなり個性の強い作品でしたから、心のどこかで引っかかっているんでしょうねえ(ちなみにサンダーマスクもよく聞かれる。ヘタな特撮ファンより、よっぽどマニアックな気がする)。
 僕が個人的にスペクトルマンを偉大だなあと思うのは、「子供にこびていない」ところだと思います。愛嬌のない公害怪獣・防衛隊ではない公害Gメン・正義が主役ではない作風・全身茶色の素晴らしいカラーリングを持つ、我らがスペクトルマン(まあ、途中で変更になったものもありますが)。
 第2次特撮ブームを生み出すきっかけを作り、もっとも昭和46年という時代を表現した、独特の世界観を持つスペクトルマン。だけどその功績のわりには、今一評価が低いと思います。もっと高い評価を受けてもおかしくないのに…残念です。
 裏番組だった「巨人の星」が当時大人気だったことをマスメディアが伝える度にむかつきます。「テメ〜 スペクトルマン(宇宙猿人ゴリ)に負けてるやんけ。でかい面すんな」ってね。
 でも最近、(凶悪な)公害怪獣がかわいく見えてきました。やっぱりどんな姿であれ、怪獣という存在に引かれる性格だからかなあ。でも当時の子供は、スペクトルマンの怪獣のソフビ人形もらってうれしかったのかなあ? 「わーい ゴキノザウルスだ!」ってね(笑)。


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